2023年 10月 24日 第15週【 区内施設見学 】
【 つくりっこの家 + 山口トマト農場(障害 + 農福連携)】
※社会福祉法人つくりっこの家
住所:東京都練馬区大泉学園町4-20-14
概要:HPより
『つくりっこの家は“障害”の有無・年齢をこえて人と人とが出会いふれあう場所です。
そしてそれぞれが持ち味を生かし合い分かち合い、支え合う関係をつくっていこうとして
います。つくりっこの家には、心の病を抱える人、体に障害のある人、そして彼らと共に
働きたいと思う人々が集まってさまざまな仕事に取り組んでいます。』
*第二種社会福祉事業 就労継続支援B型「つくりっこの家クラブハウス」の運営
*共同生活援助「みなとや」の運営
つくりっこの家では、障害の有無を「障害がすでにある」「障害がまだない」と捉え、
障害をすでにもっている人も、まだもっていない人も、みな同じつくりっこの家のメンバー
である、という考えを共有している。
※山口トマト農場
住所:東京都練馬区大泉学園町2丁目23−56
概要:練馬区 HPより
代表 山口 卓
労働力 本人・妻・福祉作業所へ作業委託(2人)
農地面積 17a(ビ二ールハウス8a)
生産品目 中玉トマト・ミニトマト
栽培方法 ヤシガラ養液栽培による長期多段取り
販売時期 10月から6月まで
生産量 13t(約4万パック)【2018年度実績】
【 用 語 解 説 】
*障害者就労支援とは…
『障害者総合支援法』に基づいて定められた障害福祉サービスのひとつ
①就労移行支援 ②就労継続支援A ・B 型 ③就労定着支援 などがある。
①就労移行支援は、一般就労で働くために必要なスキルを身につけることが目的のため、
原則として賃金の支給はない。
②就労継続支援A型は、事業所との雇用契約に基づいて就労するため最低賃金以上⋆₁の
「給与」が支払われる。 ⋆₁ 2023.10 東京都最低賃金(時間額)は 1,113円
②就労継続支援B型は、雇用契約に基づく就労が困難な人を対象としており、生産活動を
通して「工賃」が支払われる。
③就労定着支援は、就労移行支援などを経て一般就労へ移行した人が長く働き続けられる
ように、主に生活面での課題を一定期間サポートする障害福祉サービス。2018 年から開
始した比較的新しいサービスで、実際には就労移行支援事業所が就労定着支援事業もおこ
ない、より長期的にサポートするケースが多い。
※【就労継続支援B型】とは、障害や難病のある人が利用できる障害福祉サービスのひとつ。障害や年齢、体力などの理由から、企業や就労継続支援A型事業所などと雇用契約を結んで働くことが難しい人が対象。生産活動(仕事)を通して就労の機会を得て、働くスキルを維持向上することができるほか、日中に安心して過ごすための居場所という役割もある。 利用に年齢制限はなく、1日数時間だけ、週に数日だけといった利用が可能な事業所もあるので、障害の状態や体調に合わせて自分のペースで働くことができる。 生産活動の内容は事業所によって異なるが、農作業や部品加工などの軽作業が多く、同じ就労継続支援でもA型と比べてより細分化された作業をおこなう場合が多い。事業所と雇用契約を結ばないため、「賃金」ではなく生産活動に対する「工賃」が支払われる。
※【就労継続支援A型】とは、現時点では一般就労が難しいものの、一定の支援があれば雇用契約を結んだ上で働くことができる人を対象にした障害福祉サービス。就労継続支援B型と同じく「福祉的就労」での働き方で、障害や疾患などに理解のある職場スタッフのサポートを受けながら働くことができる。業務内容は事業所により異なるが、例えば喫茶店のホール業務やパソコンデータの入力代行などがある。就労継続支援A型事業所と雇用関係を結んだ上で働くため、最低賃金額以上が支払われる。厚生労働省の調査によると、2019年度における月額平均賃金は81,645円。利用対象者は、原則18歳~65歳未満の人で、就労支援を受けるなどしたが一般就労に結びつかなかった人や、一般就労で働いた経験はあるが現在は離職している人などが利用できる。雇用契約に期限がある場合などを除き、利用期間は特に決められていない。
*農福連携とは…
≫厚生労働省
・農福連携(農業と福祉の連携)は、障害者が農業分野での活躍を通じ、自信や生きがいを持って社会 参画を実現していく取組。 農福連携の取組は、障害者の就労や生きがい等の場の創出となるだけでなく、農業就業人口の減少や 高齢化が進む農業分野において、新たな働き手の確保につながるもの。障害者のQOL生活の質の向上等が期待される。
≫農林水産省
・農福連携とは、障害者等が農業分野で活躍することを通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取組。農福連携に取り組むことで、障害者等の就労や生きがいづくりの場を生み出すだけでなく、担い手不足や高齢化が進む農業分野において、新たな働き手の確保につながる可能性もある。農業と福祉(障害者)の連携という狭い意味で捉えられがちな農福連携だが、農の向こうには農林水産業や6次産業(1次+2次+3次産業のこと)などがあり、福の向こうには障害者だけでなく、高齢者、生活困窮者、触法障害者など社会的に生きづらさがある多様な人々が包摂される(インクルーシブ社会の構築)。2019年6月に発信された農福連携等推進ビジョンでは、「農福連携を、農業分野における障害者の活躍促進の取組にとどまらず、ユニバーサルな取組として、農業だけでなく様々な産業に分野を広げるとともに、高齢者、生活困窮者、ひきこもりの状態にある者等の就労・社会参画支援、犯罪・ 非行をした者の立ち直り支援等にも対象を広げ、捉え直すことも重要である。」と明記された。その後多くの場面で「農福連携」から「農福連携等」と表現されるようになった背景には、農と福のもつ意味の広がりが生み出す新たな価値への期待が込められている。農林水産省では、厚生労働省と連携して、「農業・農村における課題」、「福祉(障害者等)における課題」、双方の課題解決と利益(メリット)があるWin-Winの取組である農福連携を推進している。
【施設見学を通じて…】
さぁ、見学…。栽培ハウス内(800㎡)に入るために、先ずは内履きスリッパに履き替える。「う、暑い!」ハウス内は30℃近い温度で、汗が滲む。
農場長の山口卓氏より施設概要等、事前質問に答える形で説明を伺う。
WEB上では農福連携の成功事例として取り上げられており、農場の拡大等、経営は順調とのイメージをもって拝聴する。
・農業は自然相手の仕事、天候に左右されることが多く、現況下光熱費高騰による価格転嫁も難しい。収入が不安定で、ビジネスとしては成立しづらい → 農業には、はざかい期と繁忙期があり、元来安定した雇用創出が難しい産業、多くの農家が家族経営であることの所以でもある。但し、施設野菜(ハウス栽培)は露地栽培よりも比較的計画が立てやすいという利点があるものの、夏場の高温化は対応しきれない。冬場は暖房でハウス室温調整はできるが…。中玉トマト300円/300gで販売されている。
・農家は、この繁忙期だけ人手が欲しい → 農福連携の取組とマッチする部分
・特にトマトハウス栽培が農福連携に取組やすい理由は?
→少量多品目は、業務煩雑で覚えることが多いが、トマト栽培は、比較的簡易な作業中心。障害者といっても個人差があり、全く就労できる状態にない方もいる。個人として就労能力があるなら、障害の有無に拘らず雇用したい。
・現在、障害のある方一人を採用も、個人的な理由により休業中。
・農福連携では、障害者が休んだり、来なくなったりと当てにできない側面があり、そこでは効率や生産性を求めづらいのが実情。
・農福連携:『つくりっこの家』との請負契約 **₂による
・全体的に、丁寧な仕事をしてくれるが、いかんせん業務速度が遅いなど非効率で、障害者雇用関係助成金等もなく、障害者を受入れることのメリットは正直なところあまりないと本音も聞かれた。
→ただし、都や区は無策だと言っているのではなく、助成金を受ける一定の要件を満たすこと、様々な条件が合わなかったとのこと
・農福連携の前に、農家として抱える問題とは?
→収入が不安定、雇用の問題もあり、生業として農家が成立するのは厳しい
・食品加工(缶詰)にも取組まれるが、規格外の商品等は加工会社(杉並区の福祉作業所)のニーズに合わず、販路拡大は難しい
**₂ 『請負契約』(民.第632条)①請負人の仕事完成義務 ②注文者の報酬支払義務
【見学感想】
※農福連携の事業ビジョンは素晴らしいと思うが、どこか絵に描いた餅の印象を抱かずにはおれない。それでも、試行錯誤しながら進めることで見えてくるものがきっとあるはず。山口トマト農場の事例は、必ずしも農水省の言うWin-Winの取組とは言えないかもしれないが、そこで得られた知見は、間違いなく有益なものであることに変わりない。都市農業の難しさ、農福連携によるインクルーシブ社会実現への取組、障害者の居場所つくりや農業の課題等の一端を、当該施設見学を通じて知り、学ぶ機会を得られたことは貴重な体験となった。公平性を保つためにも、練馬区の取組についても見ておきたい。
食の安全を考えるとき、トレーサビリティの普及や地産地消の重要性については異論がないことかと思う。そこに共通しているもの、根本には、作り手、流通の「見える化」であろう。都会に住んでいると、どうしても一次産業に触れる機会は少ないと言わざるを得ない。
しかし、私たちが暮らす練馬区は、農に親しむ環境(生産緑地)が多く身近にあるということ、これは「見える化」に容易にアクセスできるメリット、他の都市にないアドバンテージだと考える。そのことを、実は区はしっかりアピールされているんですね。(今回の見学がなければ気づかなかったのですが)就農マッチングやサポートはもちろん!!やってます。
“生きた農と共存するまち練馬“
~ 練馬区の施策・取組を知ろう ~
“練馬の魅力である都市農業を振興し、多面的な機能を持つ都市農地を保全”(年度目標)
①世界都市農業サミットの開催
→ 新鮮な農作物を購入できる都市農業の魅力を発信
②都市農地の保全に向けた取組の推進・都市農業経営の支援
→ 生産緑地貸借制度の周知及びマッチングの推進
③区民が農に親しむ取組の充実
→ 農産物の収穫や加工・販売作業に携わる障害者施設を拡充するため、区の障害者
就労支援センター(レインボーワーク)と連携し、マッチング等の支援を行う
※生産緑地問題(2022年問題)とは…指定を受けることで税制上の優遇があるが、このような優遇や
制限が解除されることで、地価の下落、宅地開発等が懸念された問題
【障害者の就労について考える】
『障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)』
第1条 障害者及び障害児が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活又は
社会生活を営むことができるよう、必要な障害福祉サービスに係る給付、地域生活支援事業その
他の支援を総合的に行い、もって障害者及び障害児の福祉の増進を図るとともに、障害の有無に
かかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与
することを目的とする
※『憲法』国民三大義務(『2016年版 司法試験&予備試験 完全整理択一六法 憲法』より)
・憲法とは・・・憲法は、守られるべき人権を列挙し、他方で国家の権力濫用を防止すること
によって、国民の権利・自由を守るためにある。
・国民の三大義務といえば、『教育の義務』『勤労の義務』『納税の義務』。
・憲法には様々な権利が規定されているが、憲法上、国民の義務として規定されているのは
3つだけ。各義務規定は以下の通り。
第二十六条 22項
すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を
負ふ。義務教育は、これを無償とする。
第二十七条 11項
すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
第三十条
国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。
・では、『勤労の義務』とは何ぞやという話
勤労の権利を実質化するための国の施策は、職業安定法、雇用保険法、男女雇用機会均等
法などを制定
勤労の義務の内容→働く能力ある者は自らの勤労により生活を維持すべきことを義務とし
て課している。但し、国家が国民に対し勤労を強制しているわけではないことには注意を
要する。
≪義務の法的性格≫
単なる精神的・道徳的な指示にとどまるだけでなく、働く能力があり、その機会もあるの
に働かない者は、生存権の保障が及ばないなどの不利益な扱いを受けても仕方がないとい
う意味が含まれると解する立場が有力。
ex. 生活保護法4条1項は、勤労の義務を尽くしたことを給付の条件とする
第四条 保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その
最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
ex.日本国憲法
【基本的人権:個人の尊重、幸福追求権、公共の福祉】
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の
権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要と
する。
【生存権】
第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努め
なければならない。
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