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​Blog : 行政書士の仕事部屋     

 ~ 事務所の中の小さな本棚 ~ 備忘録

 ≫ 老いてなお … 生きるための知恵

  • 執筆者の写真山岸 研

#002 チェーホフ『ワーニャ伯父さん』

(新潮文庫:神西清 訳より)

でも、仕方がないわ、生きていかなければ! ね、ワーニャ伯父さん、生きていきましょうよ。長い、はてしないその日その日を、いつ明けるとも知れない夜また夜を、じっと生き通していきましょうね。運命が私たちにくだす試みを、辛抱づよく、じっとこらえて行きましょうね。今のうちも、やがて年をとってからも、片時も休まずに、人のために働きましょうね。そして、やがてその時が来たら、素直に死んで行きましょうね。あの世へ行ったら、どんなに私たちが苦しかったか、どんなに涙を流したか、どんなにつらい一生を送って来たか、それを残らず申上げましょうね。すると神さまは、まあ気の毒に、と思ってくださる。その時こそ伯父さん、あなたにも私にも、明るい、すばらしい、なんとも言えない生活がひらけて、まあ嬉しい! と、思わず声をあげるのよ。そして現在の不仕合せな暮しを、なつかしく、ほほえましく振返って、私たち ーー ほっと息がつけるんだわ。わたし、ほんとにそう思うの、伯父さん。心底から、燃えるように、焼けつくように、私そう思うの。…… ほっと息がつけるんだわ! …… でも、もう少しよ、ワーニャ伯父さん、もう暫くの辛抱よ。…… やがて、息がつけるんだわ。…… ほっと息がつけるんだわ!」


          神なき時代、信仰を持たぬ者にとって、ソーニャの言葉は、どう受け止めら

          れるのだろうか…

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#001 森鷗外『妄想』

(新潮文庫より) 「死を恐れもせず、死にあこがれもせずに、自分は人生の下り坂を下って行く」 鷗外は主人公の翁に仮託して、『老い』を、死が待つ人生の下り坂を下ること… と語らせる。決して肯定も否定もしない。ただ、老いとともに切実となる『死への 恐怖』はないと言い放つ。主人公の頭を、心を占めるのは、どうすれば生の内容を 充たすことができるか…ということ。見果てぬ夢・未来の幻影を追い、常に道に迷 い、日

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